・マイコン、デジタル回路、無線ICなどではクロック信号が必要となる。安定した周波数の基準信号が必要なとき、「水晶振動子」や「水晶発振器」を使うのが一般的。
・水晶は、互いに直角な方向に X/Y/Zの結晶軸を持っている。その軸に対して、一定の角度で板状に切り出すと、その切断角度で機械的な固有の振動モードが決まる。
・水晶デバイスは「圧電効果」と「逆圧電効果」を利用して安定した周波数を得る。
[1] 圧電効果 : 機械的な圧力を加えると、その力に応じて表面に電荷が生じる現象
[2] 逆圧電効果 : 外部から電圧をかけると、機械的なひずみが発生する現象
・外部から水晶電極に電気信号を印加 ⇒ (逆圧電効果) ⇒ 機械的な固有振動発生 ⇒ (圧電効果) ⇒ 水晶電極から電気信号を取り出して、また水晶電極にフィードバック、といった流れ。
・カットの方法としては、下記の通り。
- ATカット : 1MHz~100MHz帯でよく用いられる。
- BTカット : あまり使われない。ATカットに比べて温度特性が劣る。
- CTカット
- STカット
水晶カットの図 : 準備中
・水晶振動子単体ではクロック信号を出力することができない。必ず発信回路と組み合わせて使用される。
・水晶振動子 : 基準信号を得るための水晶片をパッケージしたもの。
水晶発振器 : 水晶振動子 + 発振回路 の一体になったもの。
⇒水晶モジュール / クロックモジュールとも呼ばれる。
・水晶はSiO2(二酸化ケイ素)を材料とした結晶。単結晶の人工水晶は、化学的にも物理的にも安定しており、長期で経時変化がなく、適度な硬度で加工性に優れている。
・水晶は温度特性も安定している。弾性率の温度変化と熱膨張率が相殺するため。
・直接発振可能な周波数は数[kHz]~76.8[MHz]程度。
・時計やマイコンのReal Time Clockでは、水晶振動子は32.768kHzが使われる。
- 32.768kHz を 15回 分周すると 1Hz (=1秒) が作れる
- 32768を2進数で表すと、8bit / 16bit / 32bitなどのシステムで管理しやすい
・ マイコンには低消費電力モードというものがあり、そこではメインクロック ○○MHz とは別に、32.768kHzが使われる。低消費電力モードでは、CPUを止めて時計機能に関連する周辺機能だけを動作させる。
- メインクロックから分周して1Hzを作る ⇒ mAオーダーの消費電流
- 32.768kHzから分周して1Hzを作る ⇒ uAオーダーの消費電流
このため、多くのマイコン内部には発振回路が2つ用意されている。
・よく使われる周波数のものは「標準周波数」として既製品が出回っているが、それ以外は特注生産。
・水晶デバイス以外の基準信号の発振器は下記のようなものがある。
- LC発振器
- CR発振器
- セラミック発振器 : 低コスト、精度悪め。
- MEMS発振器
- 原子発振器 : GPS衛星で使用される。
・水晶振動子に用いられる水晶は人工。”ラスカ”と呼ばれる天然水晶のかけらが原料。天然水晶よりも人工水晶の方が安定した品質になる。天然は不純物混入や、形状/寸法ばらつきなど。
・人工水晶の育成の流れ
[1] ラスカを水で洗浄。そのあと乾燥。
[2] オートクレーブという高温高圧炉の下半分にラスカを入れる。
[3] “種子” と呼ばれる薄い水晶板をオートクレーブの上半分に入れる。
[4] オートクレーブにアルカリ溶液を入れて蓋を閉める。
[5] 外部からヒーターで温度が 下半分 > 上半分 となるように加熱。
自然対流が発生して溶けた水晶が種子に付着。
⇒ オートクレーブ内は、1300気圧。350~400℃くらい。
[6] 高温高圧下でゆっくりと育成。(1日で0.5mm程度)。
およそ2~6カ月で完成。
・水晶の共振して、機械的な振動しているときの挙動を、下図の電気的な等価回路で表現される。
- R1 (ESR) : 振動時の内部摩擦などの振動エネルギーの損失に相当。
⇒これがCI(クリスタルインピーダンス)にあたる。CIが小さいと発振しやすい。
- L1 :
- C1 :
- C0 : 水晶振動子のパッケージ電極間の浮遊容量も含めた静電容量。
- 共振したときにインピーダンスが下がるので、L1とC1の直列共振回路のイメージ
■水晶振動子の発振回路
- Rf : 帰還抵抗。これが無いと、発振回路に電源を印加しても発振を開始しない。一般的には、MHz帯の基本波振動のときは1MΩ程度が使用される。発振次数によって値は変わる。
- Rd : 制限抵抗。振動子に流れ込む電流を制御。負性抵抗/励振レベルの調整。振動子の異常発振の防止。周波数変動を抑制。ATカット(MHz帯)の場合は100Ω台~数kΩ台が目安であるが、負性抵抗/励振レベルなどによる。
- C1, C2 : 外部負荷容量。こちらは任意に設定する。負性抵抗/励振レベル/発振周波数の調整。3~33pF程度が目安。
■水晶振動子の負性抵抗
・負性抵抗 : 発振回路の発振を起動させる力を抵抗で表したもの。負性抵抗の絶対値が大きいほど発振しやすい。負性抵抗は振動を増幅する能力を表すため、符号が負の抵抗値となっている。
・ 下図が負性抵抗を測定するための回路。
・Rを大きくしていくと、発振レベルが下がっていき、いずれ発振が止まる。発振が止まる直前の抵抗値を求める。この抵抗値から負性抵抗を計算できるが、その前に Re : 負荷時等価抵抗 を求める必要がある。
・Re : 水晶振動子の負荷時等価抵抗。水晶を実際に基板に搭載した時の抵抗値のこと。下図の式で表される。その値は、水晶振動子の直列等価抵抗 R1の1.2~1.3倍程度となる。
・水晶振動子が小さくなると、加工の難易度が高くなり、CI(クリスタルインピーダンス)、スプリアス特性、温度特性、周波数偏差特性などの個体バラつきが大きくなる。
・一般に、水晶振動子が小さくなると、CIが大きくなる。CIが小さい方が振動しやすい。
・フォトリソグラフィ技術のような半導体の微細加工技術を水晶の加工に応用。これによって特性を確保しつつ小型化する製造手法が確立してきた。
・水晶振動子は、水晶の厚みが薄くなるほど、発振周波数は高くなる。ATカットの場合は下記のような式で表される。
・基本波(n=1) 20MHzだと、83.5[um]程度。薄くすると、割れやすくなる、など機械的な加工の限度があって、発振周波数の高周波化は頭打ちになる。
・最近は基本波の高周波が進んだので、オーバートーン(nが3以上)ではなく、基本波を使うのが主流。
・水晶振動子のメーカーとしては、大真空(KDS)、日本電波工業(NDK)、村田製作所、セイコーエプソン、京セラあたり。